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準備をサッと済ませ
外にでるなりバイト先へ猛ダッシュを始めた。
しかし、体力がない彼は
間もなく息を大きく乱しながら公道を走っていった。
しばらくすると
裏道である山道に差し掛かった。
山道は車が通れるスペースもあり
歩行者専用の道も設けられている。
そして、山道を走り続けてから
5分が経過した。
間もなくバイト先へ着く頃だ。
彼の顔は酸欠で青ざめ
今にも吐きそうな顔をしていた。
しかし、足を止めてしまうと
遅刻してしまうため彼は必死だった。
「おまえさん、ちょっとお待ちなさい」
白く長い髭が特徴的で
気の優しそうなおじいさんが
低い声で話しかけてきた。
英嗣は険しい顔をしながら
その場で足ふみをしながら
「なんですか? 早くいかないとバイトに遅刻するんですけど……」
「おまえさんから金欲が見えるんじゃが、何かお金にお困りかな?」
(何言ってんだコイツ、変なじいさんに捕まってしまったもんだ……)
と、彼は不快感を露わにするかのように老人に一瞬睨みをきかせ足を止めた。
「どういう意味ですか? 俺急いでるので失礼します」
そう早々と言い終え
再び走り出そうとした。
その時、老人は
「おまえさんは、せっかくのチャンスを逃すつもりかね?」
と言い残した。
しかし、英嗣はその言葉に耳を傾けず走り出りだした。
「おまえさんは、今の生活に満足してるのかね!」
と老人は声を張り上げた。
その言葉を背にしながら
(満足してる訳ないだろ)
と彼は心のどこかで感じていた。
しかし今はそれ所ではない。
(俺だって変りたくてもがいているんだよ)
と叫びたい気持ちを堪えながら
英嗣はおじいさんの前を走り抜けていった。
彼が背を向けて走り去っている間……
老人がニヤリと不適な笑みを
浮かべていたことに気が付くはずもなかった。
そして、更に速度を上げたつもりになりながら
ヨロヨロと走っていく。
彼の頭の中では
軽快に走っているみたいだが……
顔が酸素を欲しいと
言わんばかりの顔をしている。
「やっべ! 変なじいさんのせいでホントに遅刻しそうじゃないか」
「ゼーハーゼーハー」
息を切らしながらバイト先に辿り着くなり
店のドアに手を差し伸べた。
(俺は今の生活に……)
思いを断ち切るかのように
勢いよくドアを開け、大きな声で挨拶をした。
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