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「おはようございます」
「"おはよう"。 早く支度してその見苦しい顔をなんとかしてホールに入りなさい」
パートや職員さんに挨拶を済ませた後
そうチーフから急かされていた。
ホールに入る時間に着替えの準備しているため
急かされて当然のはずだが、そんな考えは一切持たないマイペースな彼であった。
彼の顔はまだしんどそうな表情を浮かべているが
精一杯の笑顔を作ってホールに臨んだ。
彼の勤め先は
昔から地元民に親しまれている
老舗の人気中華料理店『玄龍(げんりゅう)』である。
開店と同時に列をなしていた
人々がぞろぞろと店の中へ流れ込んできた。
「五名様、三名様、二名様はいります」
(今日は特に忙しくなりそうだ)
彼はそんな事を思いながらも必死にホールをこなしていた。
「えっと~、餃子三つと、中華風サラダ一つと、エビチリ三つ、以上で!」
「餃子三人前、中華風サラダ一人前、エビチリソース三人前でよしろかったでしょうか?」
「あっ! はぃ」
英嗣が注文を聞いている間に
職員さんは別の場所で注文を早々と聞き終えオーダーを伝えていた。
「餃子三、エビチ三、中サラ一お願いします」
そして、しばらく経ち
彼はカウンターに回された。
「全部で三千四百二十三円になります」
「五千円からお預かりします」
「千三百五十八円のお返しになります」
「ありがとございました。 また起こし下さい」
『こんだけ忙しくて時給九百円か! 割りに合わね~。 時給もっと上がらないかな……』
そう思いながらも時間は進み勤務の終了時間を迎えた。
「お疲れ様でした。 お先に失礼致します」
週末ということもあり、彼は疲れ果てた様子で
(早く布団に潜りたい)
と、思った彼はそそくさと帰り支度を済ませて玄龍を後にした。
そして、来た道を歩き出した。
「あの変なおじいさんに二度も合わないだろう」
そう呟きながら山道に差し掛かる。
「はぁ、おじいさんは居ないな」
少し彼はホッと胸を撫で下ろしていた。
午後八時過ぎの山道は
外灯が少なく少し不気味な薄暗さを放っていた。
彼はそんな道をひたすら歩き続ける。
山道の中間地点に差し掛かった
次の瞬間……
「うわぁっ!」
と、叫び声を辺り一面に響かせた。
気が付くと、英嗣は尻餅を付いていた。
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