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壱
気付いたのが早かったせいなのか、蔵全体に火は廻っていなかった。元々江戸の大火などでも燃えなかった頑丈な造りだが。しかし古いから中が崩れていないか、それがおきくの心配の種だった。
左右に朽葉と卯月。背後には有悠がいた。三人は蔵の入り口から出ている炎に顔色を変える。おきくが真っ先に中へ飛び込もうとして、三人が押し留めた。
「危のうございます! 私達が参りますゆえ!」
朽葉が叫ぶが、おきくは叱咤の声を上げる。
「馬鹿な! 我が危ないなら、そなた達も危なかろう! 皆を守らず、何を守るのが当代よ!」
三人は、まだ成人に達していない主のその激しい気性に呑まれる。普段の感情を表に出さないおきくからは見られない姿。
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