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「謎なんていうもモノはね、この黒餡のようなモノなのだよ」
黒川――いや、一角庵が餡を掬い取ったヘラを掲げてみせる。
黒餡はこの和菓子屋の一番の売りだ。
彼の鋭い眼差しは餡の仕上がりの見極めに向けられたものか、それとも――
「犯人が分かっただって!?」
私はこういう口ぶりの時の彼が次に何を言うかを経験上知っていた。
「最中というのは皮の中に黒餡が挟まった和菓子だ。だが、挟んだ状態で時間を置くと餡の湿気で皮のパリパリ感が失われてしまう。だから当店では最中は注文が入ってから餡を挟むようにしている」
そう。
これはきっと、事件には関係ない演説なんだ。
おそらくは探偵っぽいキャラクターを演出しているか――
「お店の宣伝なら後にしてください」
朱根(あけね)がぴしゃりと言い放つ。
――どさくさに紛れて自分の和菓子屋を売り込んでいるか……だ
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