未来はいつも決まっていて、それでいて終わっている

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 俺は抗議の意味も含めてあすいさんに目を向けたのだが、彼女は自分の視線の意味に気づかなかったのか、あるいは気づいた上でのことなのか。そのどちらかであるかは分からないがあすいさんは俺から目線を逸らすと再び文中さんに向き直り、こう言った。 「よかったらあたしも手伝おうか?」  おい。  思わず俺は心中であすいさんにツッコむ。いや、確かに俺とあんたは初対面だ。信用できないのも無理はない、というか信用なんて絶対出来っこない。  そんな信用できないやつを友達である文中さんが部屋に上げて、二人っきりで勉強しようとしている……ってなんで勝手に部屋で勉強する設定になってるんだ俺。妄想も大概にしろよ。  ……。そうやって一人自分を戒めていた俺だったがその時ふと一つの事柄が脳裏に思い浮かんだ。  ――俺、女子と二人っきりで同じ空間に居座れるのか? 「……」  答え、出来るわけがない。しかしそこにもう一人誰かが加わればどうだろう、状況は変わってくる……かもしれない。  そう考えるとあすいさんが手伝おうかと申し出てくれている今のこの状況は、まさに渡りに船というやつではなかろうか。  俺は向き合っている二人に向かってこう言った。 「あ、あの。手伝ってくれるなら……ありがたい、です」  それに自分二年だから今年の一年とは何か勝手が違うかもしれないし……と小声で付け足した俺は二人の顔を窺う。 「「……」」  ……。俺の発言に二人とも呆気に取られたような顔をしていた。まるで俺の言ってることが信じられないとでも言いたげに。  まあ、あくまでも見た感じだが。それにしても自分、そんなに意外なこと言っただろうか? 「……よ、よし! じゃ、そういうことで! 場所はどうする未潮?」 「え、あ、あぁ……。それじゃあ、私の部屋で……」  その時、何故か重くなっていた俺たちの周りを包む空気を払拭するようにあすいさんが声を張り上げた。  ……というかこのけたたましい蝉の鳴き声の中で辺りに響く声って尋常じゃないぞ。どんな肺活量してんだこの人。  ――まあそんな感じで、急遽朝のレポートアドバイス講座が開かれる運びとなった。  しかしあれだ、朝から女子とのイベントが起こるなんて極めて異例のことだ。俺はもしかしたら大学生活を過ごす中での運を今全て使い切ってしまったのかもしれない。  そんなことを思った。   
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