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「――男に」
「あ、そうすか」
どうやら加藤に訪れたのは桜舞い散る春ではなく、蝉が鳴く鳴く暑苦しい夏だったらしい。
俺は両手を合わせてこう言った。
「ご愁傷様」
「いや、そこで遠まわしに突き放さないでくれ。困ってるんだ」
加藤は出口のない迷路に迷い込んだときのような顔をして俺を見てきた。
簡単に言うなら上目遣い。あとは両の腕を腕の前に持ってきたら悩殺ポーズの出来上がりである。
閑話休題。
ここ『男子校』である伊佐高で同性愛者(ホモ)から告られる。
そんなことは日常茶飯事と認めたくはないけど事実そうらしい。
実際告られた奴を見たのは今日が初めてだけど。
特に元々(こいつに言うと切れられるけど)一見女のようにとらわれがちな加藤にとってはこれが普通なのだろう。
逆に今まで告られていなかったことが不思議だ。
……こいつが女みたいな顔だから?
十中八九そうだろうけどまあどうでもいいや。
「他をあたってくれるとありがたいです」
正直男の俺にどうにかできるとは思わない。ここは『ふ』という文字から始まって『し』で終わる方たちに相談するべきだと俺は思うんだ。
……。
もしここが漫画の世界ならぽかっというかわいらしい擬音が響いていただろうね。
俺は加藤に頭を掌で叩かれていた。でも擬音の割には結構痛い。
「何をしますか」
「……お前僕がコミュ障って知っててやってるだろう」
「馬鹿いうな。コミュ障と友達が少ないって言うのは全くの別物だ」
俺は加藤にそう断言する。つかお前俺と喋れてる時点でコミュ障じゃないから。
……俺? もちろんこいつ以外にも友達はいますよ?
――ただしネットに限るという条件が追加されるけど。
「……」
しかしそろそろ本当に相談に乗ってやらないとこいつが不登校になってしまうかもしれない。
――同性に告られたから不登校になりました。
……考えただけでも不憫すぎる。
「で、どうするの」
ジト目でこちらを睨み、若干というかだいぶ拗ねかけていた加藤に優しさの心を持つ俺は話の続きを促した。
加藤ははあ……と軽くため息をついた後、
「……僕としてはこのまま穏便に高校生活を続けたい」
「うん」
つか続ける以外に選択肢ないよね?
「……返事は手紙で良いだろうか」
「いや女かよお前は」
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