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春になり、俺は何事も無く高校へ入学していた。
問題点があったとしたら、入試の日にすっかり寝坊してしまい、特に慌てることもなく二度寝を試みた俺に丁度大ちゃんが電話を掛けてきた為、その時の状況を落ち着きながら説明すれば、逆に大ちゃんが慌てて俺の家までやって来て、挙げ句叩き起こされ、そのまま自転車のケツに乗せてもらってなんとか入試に間に合ったことぐらいだろう。
大ちゃんと2ケツをしたのは随分と久しぶりで内心は役得だと思いつつも口には出さずに、いつも通り
「……大ちゃん、運転雑すぎるんだけどーっ。酔うー」
「うるせぇ…っ!お前が悪いんだから文句言うな!寧ろ感謝しろ!」
「んー……っふぁ、ねむ…」
「こ、こらっ!寝るなっ!」
といった会話をした。
必死にペダルを漕いでいる大ちゃんは春先の少しだけ温かな日差しを浴びていて柔らかなオレンジがかった毛は艶を帯びていた。
左右に激しく揺れる自転車から振り落とされないように鉄サドルの前辺りを両手で掴みながら、体を預けるように頭を大ちゃんの背中に当て、目を瞑る。
視覚を故意に失わせれば、聴覚や嗅覚は感化された。
そして、風に吹かれるのと同時に漂ってきたのは匂い慣れた大ちゃんの匂い。
徐々にそういった感覚も手放していき、直に俺は本当に眠ってしまったらしく、高校に到着してから、息を切らした大ちゃんにその日二度目となる目覚めの怒声を食らい、酷く怒られる事となった。
ああ、あと、それから…合格発表の日も俺は寝坊をして、大ちゃんに見に行ってもらったんだっけ。
まあ、何かあったとするのなら本当にそれぐらいの事だろう。
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