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「ねぇ、この子一年だよね。知り合い?」
「ん、ああ。こいつが前から言ってた幼馴染の山田だよ」
「…へぇ、君が山田くんなんだ。よろしくね」
人当たりの良さそうな笑みを向けられ、俺は必死に言葉を飲み込んだ。
どうして俺のことをこの人が知っているんだよ。
どうして大ちゃんは俺のことをこの人に話しているんだよ。
幼馴染の話なんて日常会話の中で、ふとした時のネタとして出るのかもしれない。
そう、だとして…一体大ちゃんはこの人にどんな事をどこまで話したんだ?
この人は一体どこまで知っている?
俺はこの人のことを何も知らないというのに。
俺は大ちゃんからこの人のことなんて何も教えられていないというのに。
そんな不満が口を開けば言葉として勢い良く飛び出してしまいそうで、頑なに口を閉ざしていた俺を見て、大ちゃんは不思議そうに首を傾げ、目の前のこの人は残念そうに笑い頬を掻いた。
「んー…俺、何か気に障るような事しちゃったかな」
「あー、気にしなくていいって!山田ってちょっと気難しい奴だけだからさ!でも、良い奴ってことには変わりないから良くしてやって!」
そうやって兄貴面をされるのはもう慣れてきたと思っていた。
でも、そうではなかったらしい。
俺はただ我慢し続けていただけなんだと、やっと理解した。
「それから山田も!いのちゃんってすっげー良い奴できっとお前にも色々してくれると思うから、あんまり人の親切心を無下にするなよ!」
「…わかってる」
「あ!あと、いのちゃんは頭も良いから勉強で解らないとこあったら訊けばいいよ。教え方先生より上手いからさっ。ほら、今回のテストの結果も学年一位にいのちゃんの名前があるだろ?」
そう言って大ちゃんは職員室前に設置されている掲示板に貼られたテスト結果を見る為に、後ろに顔を向けた。
それに釣られるように俺は視線を掲示板に移す。
第三学年、総合点数と書かれた用紙の一番上にある名前。
これがこの人の名前か…。
慧、だなんて見た目や行動や成績、全てにおいてぴったりの名前じゃないかとある意味感心してしまった。
……やっと初めに感じた嫌悪感がはっきりとし始めてきた。
「やっぱりいのちゃんには憧れるなあ」
「褒めても何も出ないからね?」
「むっ!わかってるよ!」
「はは、ごめんごめん。そうむくれないで?」
ああ、俺…この人が嫌いだ。
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