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「ゆい、」
笑って、私。
「おめでとう。」
砕けそうな気持ち捨てて。
「彼氏、出来たんだね。」
私は親友、でしょ?
「ありがとう!」
そう言って力いっぱい私を抱き締める結衣。
頬は赤く染まり、心なし声の調子も普段より高揚してる。
心臓も、結衣の興奮が冷めきってないのを伝えるのには充分な役割を果たしていた。
そんなに嬉しいんだ。
そう心の中で呟いて私も結衣を抱き締めた。
フワリと、私の知らない香りが鼻を掠めた。
男の香りだった。
ゾクリと、全身に鳥肌がたつ。
憎悪が心を支配する。
さっきよりも、一層ドロドロした醜い嫉妬が、欲望が、衝動が。
私を突き動かそうとする。
この手で、今、貴女を。
「美沙?」
知らず知らずの内に力を込めすぎていたのか、結衣が苦しそうに眉をひそめながら、私を見上げてきた。
その顔は、私への純粋な心配で満たされていた。
私だけの結衣。
その不安気な瞳も吐息も香りも何もかも全て私のなのにね。
どうして?
あんな男なんかに?
今ここで。
親友っていう肩書きも性別っていう縛りも常識っていう枠も、全て投げ出して貴女を奪えたら。
誰よりも幸せにしてあげるのに。
「結衣。」
「ん?」
首を傾げて微笑む親友。
親友なんてもの要らない、私には要らない、から。
「ごめんね。」
──貴女に傷を残してもいいですか?
「美…」
私は生温い関係なんて要らないの。
それよりも、今感じてるこの熱が、結衣が欲しい。
塞いだ唇から滴る糸が、まるで私への拒絶みたい。
驚きに見開かれた目が、涙を浮かべていく様に。
嘲笑るけど、笑えない。
全て掬わない。
それでいいの。
どうか私を許さないで。
私を抱えてこのまま、幸せになんか生きていかないで──‥
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