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「殿・・・・・・・・、私は・・・・・・」
宇田切が俺に向かって呻くように語りかけてくる。腕からの出血は先ほどよりもひどくなっていた。
「私は・・・・、信じています・・・・・・・・」
信じる、なにを?俺が上杉謙信であることか?俺が天下をとるということか?
「私は記憶を取り戻してからずっと・・・・・・・・。いえ、宇佐美定満だった時からずっとそれだけを信じて参りました。あなたは天下を統べることのできる御方、私たちのできないことを成される御方です・・・・・・・・・・」
痛みに耐えている宇田切の瞳は、ただまっすぐに俺を見つめてくる。
俺はその曇りない瞳から目をそらそうとするが、背けてはならないと心の奥から聞こえ、その瞳を見据える。
「あなたと出会ったときの、あの感覚・・・・・・。軍神として、龍としての魂が胸の内に眠っているのを見ました。あなたの魂、私は・・・・・・・・信じます・・・・!」
龍。俺の胸の内にある魂。
その言葉が俺の脳内にある記憶の断片を呼び起こした。
毘の一文字を背負った大軍を率い、俺は目の前にいる雑兵達を斬り伏せている。
そしてその先にいる四つの菱形の旗印を背負った騎馬隊に自分の乗る馬を突っ込ませる。
『駆けぬけろ!!』
『龍に続けぇ!!』
俺の後ろにいる兵士の誰かが叫び、全員が揃ってどこまでも響くような大声を挙げた。
俺は鼓膜を破るようなその声を聞くと、さらに馬を走らせた。
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