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「別れは済んだようだな」
毛利の低い声に、俺の意識は引き戻された。
顔を上げて毛利のほうを見ると、再び刀を構えて俺たちを斬る体勢をとっていた。
「殿、後生です。お逃げを・・・・・・・・」
宇田切の声はか細く、弱々しくなっている。
前を見れば毛利が一歩ずつ詰め寄ってきている。
下を見れば宇田切が傷口を押さえて苦しそうに呼吸している。
俺は、俺はどうすればいい。
逃げるのか、挑むのか。俺は、俺の答えは――――――
――――魂に、従え。
頭の中で俺の声で言葉が響いた。
魂に従う。俺のやるべき行動、俺の答えは・・・・・・・・・・・・。
「・・・・何をしている?」
毛利が冷たい声を放つ。
俺は自分でも気づかないうちに、宇田切が落とした小刀を拾って毛利の前に立ちはだかっていた。
「・・・・なに、やってんだろうな?」
本当に、自分で自分が何をしているのかわからなかった。
ただ無意識に、本能のままに行動したらこうなってしまった。
戦ったところで、勝てる見込みなんて万に一つもない。
これなら逃げたほうがまだ生存率は上がるだろう。だが・・・・・・・・。
「殿!なぜお退きくださらないのですか!?」
「うるさい!お前だけ置いて逃げれるわけにはいかんだろ!」
俺が叫びに近い声を挙げると宇田切は黙り、それ以上警告することはなかった。
「ならば謙信公。貴方からだ」
毛利はすでに俺の目の前まで来ていた。一歩ずつ距離を詰められていくと同時に、俺の持つ小刀の震えが強くなっていく。
俺を殺そうとする刀が振り上げられた。死ぬ。ここで斬られて終わる。
逃げないと大見得を切った。軍神だか龍だかと呼ばれた。だが結局俺はこのわけのわからない状況をなにもできないまま無力に死んでいくんだ。
抵抗など何もできないままに。
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