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僕はこの光景を決して忘れない。
目の前には大きな石があり、つたやコケがびっしりと生えている。もやのようなものが周りを囲んでいて、その神秘的な光景に、僕は見とれていた。
9歳の僕には、その石の意味は解らなかったが、不思議と優しい気持ちに包まれた。
ふと、僕は石に触れてみたくなり、一歩一歩近づき、手を伸ばした。
それは、自分の意志とは別に、石が僕の手を取り、自分を触れさせるかのような感覚だった。
(私を探して)
!!
触れた瞬間、どこからか声がした。
僕は驚き、ひんやりと冷たい石から手を離す。
なんだったんだろう。僕は恐る恐るもう一度、手を伸ばす。
今度は自分の意志で、しっかりと石の温度を確かめるように。
(私を探して)
また聞こえた。それは、周りから聞こえたのではなく、自分の体に響いていた。か弱く、今にも消えてなくなってしいそうな声だった。
「いたぞ!」
突然の声に振り返ると、オレンジ色のレインコートを着た男が、木々の間からこちらにむかって走っている。
その間も僕は、優しく石に触れていた。もう声は聞こえなくなっていた。
走っていた男は僕のそばまで来ると、がんばったなと言って、僕の肩に手を当てた。
「これって石碑じゃないですか?」
いつの間にかオレンジ色のレインコートを着た男がもう一人側にいた。その男は沢山の荷物を背負っていて、よく見ると十字の赤いマークがオレンジ色のレインコートにプリントされている。
僕に手を当てていた男はその声に反応し、一度石碑を見てから、また僕に目を戻した。
「とりあえずこの子を本部に送ろう。」
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