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AM10:00
豊洲。地上50階建てのタワーマンション最上階。
黒岩とオンナは遅めの朝食を摂っていた。
オンナがブカブカの男物のパジャマを着て、エッグトーストを頬張る。
対面の黒岩は食べ終わって2杯目のコーヒーを飲んでいる。
会話はない。
食器を鳴らす音だけが、ダイニングキッチンに響きわたる。
「あの……」
沈黙に耐えかねてオンナが口を開いた。
「あたしを殺すっていったけど…」
「そうだ」
「なんで? あたしは――」
「おまえはおれの顔をみた」
「喋らないよ、絶対! それに――」
「この世に絶対はない」
「じゃ、じゃあなんで一週間後なのよ」
「わからないのか」
「わかんないから聞いてんでしょ」
「服を脱げ」
「やっぱり…それが目的なの」
「いいから脱げ」
オンナは着ていたパジャマを脱いだ。
黒岩はアザや傷の状態をみると、湿布と包帯を取り換えた。
昨晩と同じように…。
「全然、わかんない」
手当を終えるとまた、悠然とコーヒーを飲んでいる。
「名前を教えて…」
オンナが媚を含んだような声で尋ねた。
「必要ない」
「あたしの名はミユキ。どうせ殺すんだから、名前ぐらいいいでしょ」
「黒岩…」
「黒岩・・・さん。なんかそれっぽい」
「本名とは限らない」
「じゃあ、クロちゃんて呼んでいい?」
「…勝手にしろ」
黒岩は書斎へと引き揚げた。
ミユキは改めて室内を見渡す。
3LDKのだだっぴろいマンション。
運河と湾を一望できる見晴らし。
一見、豪華なようだが、底冷えがするような暮らしだ。ひとの温もりやにおいがまったくない。
「痛…」
昨夜の傷がまた、うずきだした。
ミユキはベッドルームに入ると、横になった。
黒岩はこない。
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