火曜日

2/2
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 AM8:00  黒岩が目覚めると、ミユキがキッチンに立っていた。 「エプロンとかないの?」 「そんなものはない」  冷蔵庫にある余りモノの食材で朝食をつくっている。  クラムチャウダーにオムレツ、温野菜サラダがテーブルに並べられた。 「どう、うまい?」 「ああ・・・悪くない」 「よかった。…ねえ、クロちゃん、ひとつ聞いていい」 「だめだ」 「じゃ…じゃあ、あたしのこと話すね。それならいいでしょ」 「……」  いいとも悪いとも黒岩はいわない。  黙々とフォークとスプーンを動かしている。 「あたし、18のころタレントに成りたくて、北海道から東京にでてきたの。それで…」 「やめろ」 「…なんで?」 「お定まりのハナシだ。所属した事務所が組関係で逃げられず、おまえは変態どもに売られ、オモチャにされた」 「……」 「そんなハナシじゃ、おれは泣けない」  一片の同情も寄せずに会話を打ち切ると、黒岩はいつものように書斎へと引きあげた。 「ふう…」  と深いため息をついて、ミユキはテーブルの上をみた。  皿の上はきれいにたいらげてある。食べ残しはひとつもない。  ミユキは満足の笑みをひとつ漏らした。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!