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AM8:00
黒岩が目覚めると、ミユキがキッチンに立っていた。
「エプロンとかないの?」
「そんなものはない」
冷蔵庫にある余りモノの食材で朝食をつくっている。
クラムチャウダーにオムレツ、温野菜サラダがテーブルに並べられた。
「どう、うまい?」
「ああ・・・悪くない」
「よかった。…ねえ、クロちゃん、ひとつ聞いていい」
「だめだ」
「じゃ…じゃあ、あたしのこと話すね。それならいいでしょ」
「……」
いいとも悪いとも黒岩はいわない。
黙々とフォークとスプーンを動かしている。
「あたし、18のころタレントに成りたくて、北海道から東京にでてきたの。それで…」
「やめろ」
「…なんで?」
「お定まりのハナシだ。所属した事務所が組関係で逃げられず、おまえは変態どもに売られ、オモチャにされた」
「……」
「そんなハナシじゃ、おれは泣けない」
一片の同情も寄せずに会話を打ち切ると、黒岩はいつものように書斎へと引きあげた。
「ふう…」
と深いため息をついて、ミユキはテーブルの上をみた。
皿の上はきれいにたいらげてある。食べ残しはひとつもない。
ミユキは満足の笑みをひとつ漏らした。
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