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『とあるお兄ちゃんの恋』
☆
少し寒い夜に身体を震わせて、俺はさっき拾った野球ボールを真上に放った。
汚れのついた白球をそうして何度も放りながら、薄暗い電灯の続く道を歩いていく。
「あっ」
と、手元に戻ってきたボールを弾いてしまった。
ポテポテと、ボールは転がり暗闇の中へと消えていく。
慌ててボールを追いかけると、丁度女性が俺の落としたボールを拾い上げていた。
女性はボールを拾って、俺の存在に気づく。
風呂上がりか、長くて少し湿った髪に、白いセーター、ジーンズ。
眠たげな半開きの目で、女性はじっと俺を見据えた。
美人だなぁ、と数秒見とれたのち、俺は我にかえって女性に頭を下げる。
「えっと、そのボール、ありがとうございます」
俺が言うと彼女は自分の手に握られたボールと下げた俺の頭を見比べ、聞いた。
「このボール、過瀬くんの?」
「え、あ、はい。てか、なんで名前?」
「……クラスメイトだから。もしかして私のこと誰か分かってない?」
今一度、こんな美人が俺のクラスに居たか記憶を巡らせてみる。
……うーん?
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