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一月が経ち、当初の予定通りに父と母は一旦町へ戻った。ガスは目に見えて減りはじめていたし、少量ではあるが、ある程度のリチウムを採掘できた。私が町に戻らなかったのは、ガスが消えてなくなればシンディに会えなくなると信じていたからだ。両親が共に病で倒れ、その世話を甲斐甲斐しく続けるシンディが可哀想でたまらなかった。きっとシンディの両親はいつか死んでしまうのだろう。それが確信できるほど目に見えて衰弱しているのだ。
その日も私はいつものようにシンディと言葉を交わした。二人で異なる言語を交わしているとお互い吸収しあうことができて理解が進んだ。楽しく有意義でとても悲しい複雑な時間だった。
その時、裏口の隙間から、激しい物音が聞こえた。私は身体を一瞬強張らせたが、シンディは扉の隙間から中を覗いていた。私もシンディの頭の上から顔を出す。
暗い室内に光が射していた。表の扉が開いている。ふたつの人影がゆっくりとこちらに近づいてきた。私は恐怖に震えた。あの人たちは誰だろう。私とシンディを探しているのだろうか。彼等はシンディの両親のベッドの傍らで止まった。二人の顔が見えた。息が止まりそうになる。二人は私の両親だった。本当の両親は町へ帰ったはずだ。ふたつの人影は少年と少女の面影を残した、若かりし日の私の両親なのだ。一体何をするつもりなのだろう。
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