隣人

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 空を覆い尽くす雲。時折唸りを上げる強い風が、遠くに見える朽ち果てた建物の扉をがたがたと揺らしていた。手入れのされていない墓が、ごつごつとした灰色の岩肌までまばらに続いていて、まるで色彩というものがない。  ここはかつての炭鉱の町で、私は閉鎖した小さな病院の二階の窓から、景色を眺めていた。鉱山で働く人間たちは落盤やガスで幾人も命を落とし、運良く一命をとりとめた傷病者に治療を施したのがこの病院なのだという。  私はふと既視感を覚えて、びりびりに破れた新聞の切れ端に写る写真と景色を見比べてみる。人々が歩く広場は墓場になり、広場の回りを囲むように広がっていた家々のひとつが廃墟となって、かろうじて原形を留めるのみだ。情況は全く違うはずなのに、これほどの既視感を覚えるのは何故だろう。しばらくそうして考えてようやく思い付いた。格子がはめこまれた窓から見える景色も、古ぼけた新聞の切れ端に写る写真も、色彩のないモノクロの風景なのだ。
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