隣人

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 ここまで何時間走ったのだろう。夜に町を出て朝になり、また夜が来るまで走った。私はその間ずっと、幌のついた荷台の後ろから景色を見ていた。車は砂埃を巻き上げ、走れば走るほどに風景は寂しくなっていった。時折妙に不安になり、運転席の父と助手席の母を、仕切りの小窓を振り返っては覗いた。母はいつの間にか眠っていた。  助手席に乗りたいとせがんだ私がしぶしぶ母に席を譲ったのは、地図を見て道案内をする母の役目を尊重したからなのに、母は呑気に眠りこけていた。私はそれが不満だった。父も母も、私が不機嫌になった理由を知らないし、ちっとも考えてもいないことに腹が立った。  だから夕食では一言も喋らなかったし、食事を終えると蝋燭の灯る小さなランプを持ってすぐに二階に上がり、自分の部屋を勝手に決めた。ベッドの足のひとつに挟まっていた新聞に気付いてランプと顔を近付けた。まるで蟻が整列したような奇妙で難解な文字が照らされる。好奇心にかられて力任せに引っ張ると、一番上の紙だけがちぎれた。その紙切れのしわを丁寧に伸ばしてからベッドに転がり、それを眺めているうちにいつの間にか眠ってしまったのだ。  父や母はもう起きているだろうか。朝食の香りはしないし、話し声も物音も聞こえなかった。鳥も鳴かない朝だから、まだ眠っているのかもしれない。
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