隣人

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 私は窓枠に両肘を乗せ、両手に頬を挟んで寒々とした景色をもう一度眺めていた。他にすることが思い付かなかったのだ。日記を書くのは良いアイデアだったが、荷物は車に乗ったままだし、ペンと日記帳だけを探すのは、随分と気分が滅入る作業に違いない。そんなことを考えながら、漫然と景色を眺めていた。すると、廃墟になった建物の入り口の前を何かが横切ったような気がした。反射的に目を向けても何もなかった。  今度は建物だけをじっと見つめた。あれほどうるさかった風の音も、もう聞こえなかった。長いことそうしていると、やがてひとりの女の子が入り口から現れ建物の裏手にゆっくりと歩いていき、すぐ見えなくった。私は思わず窓枠から体を乗り出し、両手を振る準備すらしていた。  ゴシック風というのだろうか。良く分からないが、北欧の貴族の女性が着るようなフリフリの真っ白なドレスを彼女は着ていて、年齢は私と同じくらいにも見えた。  私は嬉しくなった。こんな辺鄙な場所で、同年代の女の子に会えるとは思っていなかったからだ。わくわくしながら彼女の消えた建物の裏手を、やはり随分と長いこと見ていたけれど、もう姿を現すことはなかった。それでも私は浮かれていた。両親に対する不満も忘れて、階段を駆け降りる。誰でもいいから彼女のことを話したかった。青豆のスープの匂いが鼻孔をくすぐると同時に、母の鼻歌が聞こえた。
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