隣人

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 ところが書類の内容は酷いものだった。採掘の上限は村の先住民のもので、白人たちに上限は定められていなかったのだ。つまるところ、先祖たちは騙されたのである。それまで「疑う」「騙す」といった言葉自体が存在しなかったのだから、仕方のないことでもあった。  無計画で急な採掘がはじまり、村にはさらにたくさんの白人がやってきた。鉱山からは大量のリチウムが運び出され、白人たちは我が物顔でふるまった。先住民たちは追い出されることはなかったが、白人たちに迫害され差別された。やむなく村を出た先住民たちに行くあてはなく力尽き、村に残った者の多くがガスで死ぬか、または殺されるかした。私の両親が最後まで村に残った生き残りで、ようやく村に帰ってくることができたのだと、父は言った。  私は父の話とあの白人の女の子を上手く繋げることができなかった。彼女がゴーストだとでもいうのだろうか。そんなものを両親は西洋人の戯言だと笑うに違いないし、私だって信じない。魂の概念が私たちにはないのだ。だとすれば、あの女の子を見たのは、父の言うようにただの疲れのせいなのかもしれない。とにかく、私のせいで暗い朝食になってしまったことだけは確かだった。
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