隣人

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 ガスは猛毒であるが、慎重に採掘を進めていれば、もし出たとしても塞ぐことができるのだそうだ。白人たちは手を広げすぎたから、あちこちから出たガスを止めることができなかったし、落盤も相次いだ。白人は体を弱らせながらも採掘を続け、町の活気は日々失われていく。馬鹿みたいな話だと思った。白人は間抜けだと思うし、その欲深さが哀れだとも思うが、私は両親のように憎しみを抱くまでには至らなかった。  昼前に父は物騒なガスマスクをして、鉱山の入り口に打ち付けられた板をはがしはじめた。内部はガスが充満していてその出どころをひとつひとつ塞いでいくのだそうだ。  父は安全だというが、果たして本当にそうだろうか。気の遠くなるような作業に思える。そこで私はひとつの可能性に思い至る。もしかしたら鉱山の周囲にもまだガスが残っていて、かつて栄えた町を覆っているのかもしれない。まるでモノクロのように靄がかって見える景色は、そのガスのせいなのかもしれない。そう考えると、少し息苦しくなった。父が鉱山の闇に吸い込まれていくのを私は二階の窓からずっと見ていた。
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