隣人

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 私は一階に降りると、母と二人で物騒なガスマスクを被り、車の荷台から残りの荷物を下ろしはじめた。マスクの中で汗が流れ落ちても拭うことはできず、じわじわと熱気がこもる。  母が夕食の準備に戻り、あらかた作業が終わる頃にはもう日が暮れようとしていた。鉱山の方をみると、ガスマスクをした父がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。私が両手を振ると、父も歩きながら両手を振ってくれた。そうして父が来るのを待ち、もっとも重い冷蔵庫を父と一緒に下ろして運んだ。残った荷物を中に入れる作業も父が手伝ってくれた。そうしてようやくガスマスクをとることができた。父の顔はゴムの跡がたくさんついていてとても変だった。それを笑った私を見て父も笑った。  夕食は青豆のサラダと、麦とごぼうの混ぜご飯。それと豚煮の缶詰だ。サラダは青豆をじっくり煮たものに母の特製ソースをかけたもので、私の好物だった。私がサラダを夢中で食べている間に母は父を労い鉱山内部の状況を聞いた。  父は、内部は思ったよりガスが充満していて、視界を保つのに苦労したこと。坑道が幾重にも別れていてその最奥からガスが流れこんでいること。ガスの出所は特定できなかったことを話した。  母は頷きながらも心配そうな顔をしていた。一月ぶんの蓄えしかないのだから当然だった。町に戻る時に、少しでもリチウムを採掘できなければ、我が家ははっきりいって破産なのである。  父は心配するなと言い、白人が残していった発電機とシャワーを修理した。運んだばかりの冷蔵庫がブンという音をたてて動きはじめた。次に父は念のためと、井戸に張られた板を剥がし、紐のついた桶を投げ入れて水の味見をしてから、よしと言った。煮沸しなくても飲める水だということだ。母がほっとして笑顔を見せた。取り敢えず、ここで生活する最低限の準備が整ったのだ。
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