隣人

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 それから半月ほど経っても、靄は晴れないどころか景色はますます濁って見えた。ガスの性質は空気より重いから心配ないと父は言ったが、私はガスマスクをつけて父が鉱山に入るのを二階の部屋から見送った。父の後ろ姿と同じくらいに、あの女の子も目撃していた。あれがゴーストでなければ一体何だというのだろう。もちろん信心深い両親には言えずにいた。  その日もいつものように父を見送ったあと廃屋を眺めていると、あの女の子が歩いているのが見えた。私は驚きもせずに、何となく彼女の背中を目で追っていた。すると彼女が突然振り返り、確かにこちらを見たのだ。そうしてしばらく彼女と視線を交換すると、彼女はふいと前を向き建物の裏手へと消えていった。  私はベッドの下に挟まっていた新聞をとるため、父に頼みベッドを持ち上げてもらった。新聞をとるとベッドはガタガタ動いた。新聞で均衡を保っていたのだ。父は新聞に目をやると、明らかに忌々しいといった表情をして、階下におりてしまった。私は新聞の代わりに、荷物入れに使った厚手の紙箱を同じ形になるように丁寧に何枚も切り取り、ベッドが安定するまで差し込んでいった。  新聞は何度見ても、奇妙で複雑な文字だった。写真は繁栄した町と、充実した白人たちの表情を写していた。他人の町を騙し奪うような人達にはとても見えない。殺人を犯すようなツミビトにも到底見えない。そのことが逆に恐ろしかった。
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