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ようやく扉の音がよく聞こえるようになった頃、皇子は我が身を顧みた。
「“哀れな孔雀”か…」
正直なところ、溜め息が止まない程、皇后と手を組んでいる者達には呆れる。
10年程前の母上といた頃はこんなものであったか?
『宮様。』
『何ですか、母上?』
『そなたの名は琥珀と言うけれども、貴方は光輝く孔雀のように美しい。皆が“孔雀”と言うのがよく分かります。』
『母上?』
『母は名の通り、みにくい雉子ですから…。』
違う。
母上はみにくくない。雉子だって光に当たれば美しいではないか。
私が孔雀と言われるのは、あの皇后が母上を鳥のように見下すからだ。
母上はあの時から心労が酷かっただろう。
だから、亡くなった時も
『母は先に逝きます。これからもどうかお幸せに…。』
『母上――…!』
皇子の顔にはいつの間にか涙が伝っていた。
美しい母上を死なせたのも、他の仕打ちも、何もかもあの皇后のせいだ。
『哀れな孔雀―…。』
ふと、笑ったあの娘の言葉が蘇った。
たとえ女子に好かれなくとも、一人で生きていく――…!
それは、16歳の迷わぬ決意であった。
運命が悪戯をするまでは。
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