1話 隠れ咲く

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ようやく扉の音がよく聞こえるようになった頃、皇子は我が身を顧みた。 「“哀れな孔雀”か…」 正直なところ、溜め息が止まない程、皇后と手を組んでいる者達には呆れる。 10年程前の母上といた頃はこんなものであったか? 『宮様。』 『何ですか、母上?』 『そなたの名は琥珀と言うけれども、貴方は光輝く孔雀のように美しい。皆が“孔雀”と言うのがよく分かります。』 『母上?』 『母は名の通り、みにくい雉子ですから…。』 違う。 母上はみにくくない。雉子だって光に当たれば美しいではないか。 私が孔雀と言われるのは、あの皇后が母上を鳥のように見下すからだ。 母上はあの時から心労が酷かっただろう。 だから、亡くなった時も 『母は先に逝きます。これからもどうかお幸せに…。』 『母上――…!』 皇子の顔にはいつの間にか涙が伝っていた。 美しい母上を死なせたのも、他の仕打ちも、何もかもあの皇后のせいだ。 『哀れな孔雀―…。』 ふと、笑ったあの娘の言葉が蘇った。 たとえ女子に好かれなくとも、一人で生きていく――…! それは、16歳の迷わぬ決意であった。 運命が悪戯をするまでは。
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