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霞子は暗闇の中、小袖で通りを走り続けた。
家が遠くなるように。
逃げ続けた。
嫁なんてっ
嫁なんてっ
嫁ぎたくない――…!
だんだん息切れがしてくる。
不意に小石につまずいてしまった。
「きゃあああっ。」
霞子は地面に突っ伏してしまった。
こんなに酷く転んだのは初めてだわ。
痛い―…。
涙が伝ってきた。
「ううっ。」
『姫君を嫁に出す――…。』
ふと寅子の母の言葉が蘇った。
一番邪魔な存在の私が嫁ぐというのに、反論するような態度をとられるなんて変なお方。
私は貴女といて居心地の良かったことなど一度もないのに。
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