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ある晴れた日。2つの輿が都の門をくぐろうとしていた。
門番の役人達が身元の確認をする。その名に覚えがあるのか、顔色がおかしい。
「何をしているのです?早くお通しなさい!何の差し障りがあると言うのですか?!」
と女房らしき人が輿から言った。
すると、役人達はそそくさと道を開けた。
ふぅ―…と、女房が溜め息をついた。
そして、
「大丈夫でございますか?宮子様。」
と輿の中にいた姫君に言うと、
「私は大丈夫よ…。でも、宮子様と呼ぶのは止して。成人しても、私は正式な宮子ではないのだから…。」
と姫君がうつむく。
悲しさを紛らせるためか、外を眺め、
「しばらく都にいなかったから、この風景も懐かしいものね。5年もいないとそう感じてしまうわ。あの時の事がまるで昨日のよう――…」
5年間も胸の内に隠した想いがあふれ出そうになった。
宮様…。
貴方様は今、どこにいらっしゃいますか?私のことを覚えていらっしゃいますか――…?
それは愛しい人への想い。
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