1話 隠れ咲く

2/37
前へ
/76ページ
次へ
鶯の鳴く春。 ―鳳邸― 『ホー、ホケキョ…』 と屋敷に響く中、一人の女房らしき人が主にやって来た。 「おお、紗(すず)よ。来てくれたか。」 「はい、兄上…いえ、殿。ご機嫌麗しく、何よりでございます。」 「今日でそなたが姫の世話をして10年が経つな。」 「はい。時の流れはとても早ようございますね。もうそんなに経つなど―。」 「そうだな…。忘れもしない。この日は――…」 『ホー、ホケキョ…』 一瞬、部屋が静まりかえった。 主は我に返った。あの日からもう10年という月日が経ったのかと。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加