二人の少女 ―結祈 夢を忘れる―

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稔市立稲嶋高校1年E組。浮魔結祈の日記。 『四月八日。曇 昨夜というか、今朝、私はとても変な夢を見ました。昨日、現国の藤柳先生から日記の宿題が出たので、その夢のことを書こうと思いました。夢のことだけではなく、現実にも、日記に書けそうなことが色々ありました。 三時間目、体育の時間に、松村さん達とサッカーをして転んだこととか(でも、すごく楽しかった。松村さんのシュートを見て、守川くんが『黄金の右足だ』って叫んでました)、昨日の学校の帰り道、真っ白な子猫が鳴いていて、すごく可愛いかったので抱こうとしたら草むらに隠れてしまって、弟と二人で探したのにどこにもいなかったこととか、書くことはいっぱいあります。 私は、日記の宿題は好きで、高校生になっても藤柳先生が時々、日記を書きなさいって言われるので、結構喜んでいます。毎日、書きたいことはありますが、この数日は特に色々あったように思います。でも、やっぱり夢のことを書こうと思いました。私が、どうしてそう思ったかというと、とても不思議な夢だったからです。その夢は、』 そこまで書いて、結祈は、日記帳のページにシャープペンを転がした。胸がどきどきしている。息をするのが苦しい程だ。 ――続きが書けない どきどきする胸をおさえてみる。目を固く閉じてみる。曾祖母に習った『うっかり忘れを思い出すおまじない』、両手の人差し指を額に当てて「出てこい、出てこい、顔を出せ」という呪文を三回唱えてみたけど、何も浮かんでこない。 ――そんな。さっきまで、ちゃんと覚えてて…… ちゃんと覚えていたのだ。とても変な夢だった。そしてとても不思議な夢だった。 怖くて目が覚めた。 よかった、夢だったんだ。
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