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十は何も言わずに空を見ていたが、心なしか頬が赤かった。
三木はそれを横目で見やり、微笑を浮かべながら再度空を見た。
「龍安寺の事で分かったと思うけど、私は今京都に住んでいる」
「おいおい、そんなこと言っていいのか?」
「いいんです。君は信用できるみたいだし」
「わからねぇぞ。正体がわかった日にゃ捕らえて拷問に掛けるかもな」
「ふふふ…怖い怖い」
それから二人は話すこともなく、暫く空を仰いでいた。
「夢の中で寝るというのはまた不思議なものだけど…寝てしまいそうだ…」
「寝ればいいじゃないか」
「うん。寝るよ」
三木は十の言葉に甘えて目を瞑った。
十は三木が眠っているのを確認し、右手に刃物を出現させて構えた。
すると空に暗雲が立ち込め、月明かりを遮った。
雲はやがて雷を生み、雨を降らせた。
十は瞬時に刃物を消し、立ち上がって周りを見回した。
「私はある日、ある人の死相を見た」
突然側で発せられた声に驚いた十は、素早く振り向いた。
いつの間にか起きていた三木が、十に背を向けてある方向を見つめていた。
十も同じようにその先を見ると、いつの間にか丘の風景が変わり、遠くに見覚えのある屋敷が現れた。
「それは雨の日…」
三木の言葉に同調するかの如く、雨足が強まった。
十は強まる雨を凌ごうと傘を出現させて差した。
そのお陰か、雨で遮られた視界が開け、屋敷の様子を見ることが出来た。
だが相変わらず三木は動かず、屋敷を見つめているだけだった。
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