吾輩は猫ではない

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それには櫻島も驚き、急に態度が変わった男を訝しげに見上げて固まった。 何故かならば、男の鼻から血が流れていたからである。 「な、お、お兄さん鼻血ーー」 「キミは、猫だったんだね!?」 「………は?」 櫻島は静止した。 ーー猫? 「あー…何処を見たら猫に見えるのかね?」 「髪が跳ねているのが良い証拠。キミは猫だ」 櫻島は気付いた。この癖毛はきっと誰も見た事がないのだと。 男は頭を撫で始め、そして後ろに留めている長い襟足を触り始めた。 しかもうっとりとした顔で。 「この髪も、まるで尻尾のよう」 「あの、吾輩は猫ではないのだが?そして鼻血が出ているぞ」 だが男は聞いていなかった。 これでは埒が明かないと思った櫻島はそっと身を引こうとしたが、かえって髪を引っ張られた。 「ぎゃっ!」 「ほら鳴き声」 「どうしたらこれが鳴き声に聞こえるのだ!」 「よし決めた。キミを連れて行こう」 「何!?」 焦った櫻島は懐に入っている煙幕玉を取り出して投げた。 「なっ、ごほっ…!何処に行くつもり!?」 「残念だが吾輩は長居できぬのでな!攫われる前に逃げるでござる!」 そして櫻島は煙幕に紛れて姿を消した。 男は煙を掻き分けながら脱出したが、櫻島の姿を見つけることができなかった。 「残念。逃しちゃった」 (だけど見つけるのは簡単かもね) 男は口の両端を上げて怪しく笑った。 鼻の血を拭かずに。 「というか、ござるって何よござるって」 独り言を言いながら笑ったが、町人達はその姿を周りは見て見ぬ振りしながら男の前を通り過ぎた。
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