吾輩は猫ではない

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櫻島は驚きを交えた目で桂小五郎を見た。 「何故貴方がここに!?そうか、萩は長州か!となると、京まで遠くなってしまったな…」 一人で納得して頭を抱える櫻島を見て桂は心配になった。 「京に行きたいのか?」 「うむ。だが、間違えてここに来てしまった。すぐにでも京に行きたいが、金銭が…」 「成る程。私に任せなさい」 桂が自信ありげに胸を叩くのを見て、櫻島は不思議と桂を信頼出来ると思った。 「そもそも、何故吾輩が困っていることが分かったんだ?」 「口に出ていたからな。絵描きをしているんだって?なら好都合だ。その知り合いの家はーー」 「あー…成る程。家というより、小屋?」 暫く歩くと、桂の知り合いがいるという家ーーいや、小屋に近付いた。 「あれは寺子屋。ここの持ち主の家に住み込むんだ。おーい!吉田松陰先生」 櫻島はハッとして、その呼ばれた人物を見た。 吉田松陰と呼ばれた細身の侍が、小屋の前で箒を動かしていた。 桂に気付いた吉田は、手を振りながら近付いた。 「どうしたんだい小五郎。港に行っていたのではないのかい?」 「面白い人を見つけたんだ」 ほら。ーーそう言って櫻島の背を押して、吉田の前に差し出した。 「おや、随分と可愛い子供じゃないか。背はあるが。君は何歳なんだい?」 その言葉に櫻島は眉間に皺を寄せ、ぶっきらぼうに言った。 「失敬な。吾輩は十九歳だ」 すると、桂と吉田は驚いて身を引いた。 「なんという童顔!私はてっきり十四歳かと」 「小五郎、あー…彼は傷ついてるぞ。子供扱いしてすまなかったね。ところで小五郎。どうして私に紹介を?」 「彼を住み込みで雇って欲しい。短期間で」 「おや?何故だい?」 そう言って櫻島を見ると、櫻島は苦笑しながら長州に来た経緯を吉田に全て話した。 途中「おやまぁ…」だの、「可哀想に」と相槌を打ち、剰え涙ぐむ始末だった。 「え?!ここ泣くところなのか!?」 すかさず櫻島がつっこむと、桂が「ほっとけ。彼の悪い癖だ」と言って、吉田に向き直った。
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