過去の栄光

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とある川に沿って立っている木の下に、一人の美青年が座っていた。 美青年は川に向かって溜息を吐くが、何も起こりはしない。 ただ静かに川が流れるだけであった。 「これまた奇妙な夢だな。早く覚めねぇかな…」 独り言を吐くも、聞く人はいない。ーー独り言だからだ。 美青年は近くにある石を掴んで川へ投げた。 石は見事に七回連続で飛んでいったが、美青年は満足することは出来なかった。 (ま、夢だからな) 一人苦笑をしながら次々と石を投げ始めた。 カサッーー 何処からか草の上を歩く音が聞こえ、美青年は音のした方へ振り向いた。 「「ーー!?」」 何故かお互いが驚いた。 美青年は、まさか意識のある夢に人が現れるとは思わなかったのか、刀に手を当てようと身構えた。 だが美青年は違和感を感じ、腰元を見た。 (え…丸腰…!?) 美青年が慌てふためくと、クスクスと笑い声が聞こえた。 美青年は睨むように顔を上げた。 「何が可笑しい、この眼鏡が!」 美青年を見て笑っていた人物は、よく見ると美青年と同じくらいの身長、同じくらいの年の青年だった。 肩に届きそうな髪は結いておらず、目にかかるくらいの前髪があり、眼鏡を掛けていた。 女のような顔立ちをしているが、生憎ニヤついているため品のかけらもない顔になっている。 それを知ってか知らずか、眼鏡の青年は目を輝かせながら美青年をまじまじと見つめていた。 「夢に美青年が現れるとはラッキーだ!ねぇ君、何ていう名前なの?あ、夢だから私が思った通りの名前になっちゃうのか。じゃぁあれだ、山田太郎かな?」 「ちげーよ。夢だからって勝手に名前を付けるな。俺は………も、十一丸(もぎき いちまる)だ」 すると眼鏡の青年は口をあんぐりとさせ、暫くそのままの状態になっていた。 少しすると気が付いたのか、瞬きを数回繰り返し首を傾げた。 「“もぎき”って聞いたことないなぁ…それより、聞いたことのないものが夢に現れるのだろうか…?」 独り言をなのか意見を求めているのか分からない事を発する眼鏡の青年だが、言ってることには一理ある。 そう。見たことも、聞いたこともないものが夢に現れるのだろうか? 美青年には正直、この眼鏡の青年との面識はない。 が、分かることは、お互いが夢の登場人物ーー架空の人物だと思っているということだ。 ((なのに操れない…)) この時、二人が同じことを考えていたとは誰も知らない。
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