1章

2/3
前へ
/3ページ
次へ
ヒグラシが鳴く夏休み明け。 西校舎の階段を昇りきった先。 屋上へと続く錆びた鉄扉の前。 開け放たれた窓からアキアカネが飛んでいるのが見えた。 体育館から響くボールの跳ねる音、ホイッスルの響きや顧問の先生が指示をとばす声、合唱部の発生練習。 大半の三年生が受験で引退したこの季節は夏休み前よりも活気が少ないような気もする。 ここからはその光景は見えなくて、よく晴れた空と西陽だけ。 眩しくて目を細めると、残暑の残り香のような生暖かい風がセーラー服のスカートを揺らす。 階段を踏みしめる音がして振り返った。 見覚えのあるユニフォームは綺麗に漂白されているのか、毎日泥だらけになるにもかかわらず染み1つない。  「来てくれたんだ」 嬉しそうに、恥ずかしそうに呟く私の待ち人。 一つ上の先輩で一学期に行われた体育祭の縦割りで一緒だった人。 二人三脚の足をつなぐテープが擦れて怪我をした私を保健室まで連れて行ってくれた人でもある。 少しだけ垂れた目が印象的だったし団長をしていたからよく覚えている。 野球部だったんだ。 あれ、でも三年生はもう引退したんじゃなかったかな?
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加