486人が本棚に入れています
本棚に追加
-朔夜side-
…ドアの外で聞こえた大地のうめき声。先輩の威嚇するような声。敵であろう人物の狂ったような笑い声。はじかれるような音。ぶつかる音。
カタカタと震え出す両手を抑えて…
目の前の歌詞カードに向き合う。
失敗したら、みんな失う。
一旦落ち付けるように瞳を閉じて…
歌は、二番に入った。
……出だしは、望からだ。
『朝のニュースは、騒音。
僕の耳には響かない。でも、今日は別。この飛行機にキミが乗っていることを僕は知っているから。
…窓の外には、庭に積もった白い結晶。…もうすぐ、キミに会える。
身支度を整えて玄関で待つ僕の横で鳴る電話。
僕をすり抜けて電話に出るお手伝いさん。落ちた受話器。
Ah…喉が乾いて仕方ない。』
望の透き通った声が響く。
……ドアの外では、もみ合うような音は続いている。
……先輩も大地も、無事でいて?
祈るような気持ちで歌詞を紡ぐ。
『『黒の行列。白黒の世界の何処にあの子はいるの?
…そう尋ねた僕を強く抱きしめたお手伝いさんの肩は、小刻みに震えていた。』』
……声が、震える。
『『Ah…
声が聞きたいんだ。
ぎゅっと、抱きしめたいんだ。
その後、笑顔でお帰りを言うから。
見上げる空から舞い降りる白の結晶を
早く降らせてくれ、俺に降らせてくれ…
君が帰ってくるはずの季節が…Ah。』』
最初のコメントを投稿しよう!