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到着したエレベーターのドアが開き、俺達は足を踏み出した。
ドアが開いたエレベーターから明らかに同業者らしき人が降りてきて、俺は、反射的に顔を隠した。
エレベーターに乗ろうとしていた足も止まり、俺は、立ち止まった。
義信は、立ち止まった俺を不思議そうに呼んだ。
「仁?」
そんな俺の緊張した気持ちをよそに、雰囲気はガラッと変わった。
「おっ。義信やん」
「あっ!おっちゃん」
義信が、同業者らしき人に呼びかけられた。
知り合いってことは、もしやこの人が義信の…―――。
背が高く、全身黒で統一された服装で、オーラが一般の者とは違った。
義信の叔父は、両側に舎弟を引き連れていた。
「雨の中、傘もささんと帰ってきたんか。びしょ濡れになっちまって、風邪ひくなよ」
「わかっとる。わいは風邪ひかん」
濡れた髪を叔父にぐしゃぐしゃにされて、嬉しそうに笑っている義信に少し腹が立った。
「うん?そちらは?」
俯き、濡れた髪でなるべく顔を隠した。
「マイスイートハニーや。可愛ぇやろ」
義信が俺の濡れた髪を掻き揚げる。
完全に義信の叔父に顔をさらすことになった。
「ほんま美人やな。はじめまして、仁くん。義信から話はよく聴いているよ。これからも義信と仲良くしてやってな」
「こちらこそ」と、礼をする前に、デコにキスされた。
「おっちゃん!!」
義信に勢い良く引き寄せられ、後ろに隠された。
「なにすんねん」
「だって可愛ぇんだもん」
「だもんちゃうわ。うわぁ~・・・消毒せな」
義信は、俺のデコを何回も擦った。俺は、少し痛い思いをしながら、義信に抱きしめられていた。
「なにが消毒や。あまり相手さんに迷惑かけるんちゃうぞ」
そういうと舎弟を引き連れて、出て行った。
「大丈夫か?デコ気持ち悪ぅないか?」
「…義信の叔父さんっておもしろいな」
「おもろうない!仁、おっちゃんに惚れt…」
軽くだが、顔に一発お見舞いしてやった。
「はやくしろ。エレベーター閉めるぞ」
予想外な出来事だったが、義信の叔父は良い人らしい。
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