49人が本棚に入れています
本棚に追加
全ての思考が停止する臭いというものがある。
それを通り越した先にあるのは、軽い失神だ。
「どうしたの」
優しげな顔立ちの色の白い男が、潰れかけた長屋のような建物から現れた。
内股。
この人すごい内股。
そして目にしみる異臭は、耐え難いほどに強くなった。
横に居た友達の瑞希を見ると、これはもう無様に地面を這っていた。
逃げよう。
俺は踵を返そうとして失敗した。
瑞希の手が、俺の足首を掴んでいたからだ。
「入部希望?」
内股が涼しげな声で聞いてきた。
俺のシャツに掴まりながらようやく立ち上がった瑞希が、頷いた。
バカ、離せ離せ。
俺はジタバタしたが、内股がにっこり笑って俺の手首を掴んだ。
ひょろりとして、さほど大きくもない男の力ではない。
俺と瑞希は、為すすべもなく部屋へと引きずり込まれた。
最初のコメントを投稿しよう!