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慌てて落ちてくる桜の花びらと格闘を続ける。が、いっこうに捕まえらる気配がない。手を伸ばせば、手が作ったわずかな風で流れる。待っていれば、間合いに入る前に落ちる。どうしたら捕まえられるんだ?
「残り一分。」
やけくそになってやたらめったら手を動かし、足を動かし、落ちてきた全ての桜を捕まえようとする勢いで残りの一分を頑張る。しかし、あっけらかんと賭けの時間は終わった。一枚も掴むことは出来なかった。先輩の勝ちだ。
「だめでした・・・」
「見れば分かる。」
かんばった賞とかないのかな。もう一回、先輩とデート出来るとか。
「どうしてこんな簡単なことが出来ないのか、疑問だな。」
先輩は首をかしげて、俺の隣に歩いてきた。その上に木漏れ日と葉の陰映える。不思議だ、絵の世界じゃないはずなのに、先輩はまるで絵の中のヒロインみたいに手を伸ばして俺に何かを訴える。
「ほら、捕まえた。」
先輩の手のひらにいとも簡単に桜の花びらが止まった。先輩はきれいな手で花びらをつまむと俺の手のひらにのっけた。
「追いかけすぎると逃げるものもある。捕まえたいなら、待つことも必要だ。」
先輩の言う、逃げるものがよく分からず、俺はバカみたいに突っ立っていた。先輩は逃げないでしょ。俺が捕まえるかどうかは別問題に、先輩は俺の前から逃げたりなんかしないでしょ。でも、知りたいと思う気持ちが追いかけることと同じならば、俺は先輩は追いかけすぎて、迷惑をかけていたんだろうか。
「・・・すいません。」
「なんだ?何を謝る?」
「その・・・今日、無理に呼び出してしまって・・・」
「別に、今日は出かける日だったからな。かまわない、」
先輩はポケットに手を入れて、桜の影から出て行った。春の陽が俺の求め人を照らす。あぁ、やっぱり、きれいだ。
「これから、画材を買いに行く。私の行きつけだが、ついてくるか?」
「いいんですか!?」
「あぁ、お前にだけ教えてやる。桜の花を見せてくれたお礼な。」
先輩は歩き出す。まるで俺を誘うようにゆっくりと。俺は花びらを両手で包んでその後を追った。
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