300人が本棚に入れています
本棚に追加
酉島美優(トリシマ ミユウ)も、そんなちぐはぐな時代に生まれ落ちた女性の一人だった。
23歳を迎えた彼女は、高校を卒業してすぐに就職をした。
就職後、5年が経過した今「キャリアウーマン」と言われる存在へと一歩ずつ足を踏み入れようとしている。
いずれは結婚も…
とは考えてはいるが、まだまだ彼女の中で具現化されたものではなかった。
これまでも、それなりに付き合っている人もいたし、「結婚」と言う言葉を言われたこともある。
しかし、いまいち現実味がなくて、結局先に進むことはなかった。
「酉島っ」
美優はパソコンに向かって、後輩が作成した企画書に目を通していた。
まだまだ、拙い文章と、まとまりのないグラフは、企画書として提出するはずの"軸"を全く見失ってしまっているようだった。
企画書の書き方やお作法は、数をこなせば慣れることだ。
そこについては、直しはしても特段気に止めるようなことではない。
しかし、"軸"を見失ってしまっているのは些か気にはなる。
そんなことを考えながら、美優はじっと画面を見ていたが、声を掛けられ思考が遮られたことに、ため息を付きながら、自分を呼んだ相手の方へと顔を向けた。
「…はい」
「少し良いか?」
「えぇ。」
最初のコメントを投稿しよう!