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美優は席を立つと、声を掛けてきた相手の席へと移動する。
声を掛けてきた男は、彼女の直属の上司だった。
外見は、取り立てて表現出来るような特長はないが、中身で言えばとてつもないキレものだ。
彼の指示や、指導はいつでも的確で、社内でも一目を置かれるような存在だった。
しかし、言葉一つ一つの語尾やイントネーションが雑なせいか、勘違いもされやすく、また敵も多かった。
そんな上司を、美優はそれなりに尊敬していたし、信頼もしていた。
「何かご用ですか?」
「あぁ。
急で悪いが、明日、朝一で横浜まで行ってきてもらえないか?」
「横浜…ですか?
どういった件ででしょうか」
「取引先から商談の依頼があったんだ。
それで、お前を寄越すように言われてな」
「…商談?…指名で、ですか?」
美優が僅かに眉を潜めると、上司は座り心地の良さそうな椅子へ深くもたれ掛かった。
「あぁ。
指名だったらしい。
すまないが、何故お前なのかは俺にも分からんのだ」
「お相手は?」
「鷹志下(タカシゲ)重工業の取締役だ」
「は?取締役…?」
美優は訝しげに顔を歪めた。
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