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ましてや、鷹志下重工業の本社は、東京の品川にあったはずだ。
何故、横浜なのだろう。
「…商談の内容は…?」
確認したいことは山程あったが、その殆どは、回答が返ってこないような気がして、美優は当たり障りのない質問を投げ掛けた。
しかし、上司はため息混じりに、首を左右に振った。
分からないと言っているのだ。
「…私は…何の商談に伺うのでしょう?
鷹志下重工業の取締役とお話し出来るような、商談ネタは持ち合わせていないはずですが…」
「あぁ。それは分かっている。
しかし、社長からの命令だ。
社長も詳しいことは聞かされていない。
ただ、お前一人を寄越すように言われただけだそうだ」
「それに従えと?」
上司は否定も肯定もせず、デスクに置かれたコーヒーを一口、口に運んだ。
それは、どうやら飲むための行為ではなく、唇を濡らすためだけの一口だったようだ。
「明日、9時にココに来て欲しいとのことだ」
すると、上司は一枚のメモ用紙を、デスクを滑らせるように差し出した。
美優は無言でそのメモを見る。
「代表取締役常務…鷹志下結斗(タカシゲ ユウト)」
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