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山の中腹に来たレインはそっとしゃがみ、山菜を摘んでいく。
晴れ渡っていた空は、レインの心と反映するように曇っていた。
「(僕と母さんは、みんなに何もしてないのに……)」
村人は、レインの母、ティアナが魔女だからと畏怖し村はずれに監禁した。
だから彼女はレインが物心ついた頃から、あの小屋から1歩も外へ出ていない。
なのに、村人は彼女の力を求めてきたのだ。
煉獄の魔女、と呼ばれる三大魔女のティアナは、常人が超越した魔法量を持っておりその力は魔物が怖れるほどであるらしい、とレインはおぼろ気に母を思い浮かべた。
「(母さんが、あの村にいなきゃ行けないのは、村の人たちを魔物から守る為に結界を張ってるからだ)」
何故、魔物が徘徊する山奥でシーブの村人たちが平和に暮らせているのか。
それは全て、ティアナの張る強力な結界のお陰なのだ。
魔女に守られているのに、その魔女を蔑む村人。
そして、レインも蔑まれていた。
頭を撫でると、微かながら血が付く。
投石によって怪我をしたようで、レインは小さく息を吐いた。
「クゥーン」
「あ、みんな!」
気が付けば、レインはウルフの群れに囲まれていた。
人肉を好む種のシークウルフに、レインは笑みを浮かべ手を広げる。
するとウルフたちは鼻を鳴らしながらレインの腕にすっぽり収まり、頭を押し付けてきた。
「ははは、元気にしてた?」
「ヒャン!」
小さなウルフがレインの足元にじゃれたり、大きいオスのウルフが背に身を預けてくるのを、レインは嬉しそうに破顔する。
レインは、魔物に好かれる体質をしていた。
魔物が人間に懐くことはまず有り得ないことだが、どう言う理屈か、魔女である母のティアナも理解出来て居なかった。
これが、レインがシーブのものたちにバケモノと言われる所以なのだが、レインはそれでも良かった。
「僕には、母さんとみんなが居ればそれで幸せだよ」
ウルフの柔らかな毛並みに顔を埋めれば、顔を舐められる。
きっと、魔女である母の何かを譲り受けての特異体質なのだと悟った彼は静かに笑う。
村人たちからの扱いがどうであれ、今がこんなに幸せに感じる。
それで良い、母と魔物と言う友達が居れば、レインは幸せなのだから。
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