崩壊した日

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横たわる母。 とくとく、と広がる赤い液体。 レインはただそれを茫然と見てから、母が立っていた場所に立つ男を見上げる。 男は金髪を靡かせ、血のついた剣を払い、鞘にしまった。 「死ね、煉獄の魔女よ。貴様の時代はここで潰えるが良い」 「っ、お、のれ……!」 ティアナが血を吐き出しながら、男を睨み上げる。 そのティアナを見て、レインは直ぐ様しゃがみこみ母の手を握った。 「か、あさん……、母さん、母さん!!」 「レイン……」 スッと頬に伸ばされる手。 ぬるり、と鉄の匂いの赤いそれを塗られた。 「貴様ら、用は済んだ。帰るぞ」 「え、は……あ」 騎士たちの会話も聞こえないまま、レインの目からボタボタと涙が落ちていく。 大好きな母が。 真っ赤に染まっていく。 「母さん、やだ……母さんっ」 「泣か、ないで……愛しいレイン……」 「母さん、でも、母さんが……!」 「そう、ね……母さん、疲れた、みたい……」 フッ、と笑うティアナは、力を抜きながら優しくレインの頬を撫でていった。 血と涙で汚れる頬を、撫でながら。 「だから……レイン、は……父さんに、任せるわ……」 「父さん、って……?」 「母さん、先に…寝ちゃうわ、ね……ありがとう、レイン……だい、す……」 パタリ。 力なく落ちた手。 目を閉じたまま、もう開かない口。 「う、」 優しい母の笑顔。 大好きな手料理。 いつも一緒にいた時間。 それは全部、もう帰って来ないと悟ってしまったレインは、ただただ涙が溢れて。 「うわああああああああああああああ!!!!」 血に染まった母の胸元に縋るように泣き叫ぶ。 騎士たちはそれを背に1歩外に出たが、その瞬間に激しい大雨が降り注いだ。 「っ、雨……!? 今のいままで、雨など……!」 「隊長、大変です!!」 村に待機させていた騎士の一人が慌てて小屋の方に駆け寄ってきた。 「何事だ!」 「それが、村にシークウルフの群れが出没して……、村人たちが次々に襲われているのであります!」 「シークウルフ、だと……!? 何故あの危険度Aランクの魔物が、こんな寂れた山奥に……!」 「とにかく、至急応援願います!」 騎士たちはウルフ退治へ全員が村へ駆け出す。 少女はどうして良いのかわからず、大雨とレインの悲痛な泣き声に挟まれ、ただただ俯くことしか出来なかった。
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