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ウルフの群れを追い払った頃には雨も夜も明け、騎士たちは疲労の色を見せながら少女の元へと帰ってきた。
母の死体の前で動かないかのように座るレインを視界の端に入れながら、騎士──ティアナを殺害した、ブライド隊長は少女ユティの前に跪く。
「ユティ様、貴女は今から煉獄の魔女として就任しましたことを、我々が承認致しましょう」
「え……で、でも……私」
ユティはレインへ視線を向ける。
泣き叫んだあとから一向にあのまま動かない少年と、故・煉獄の魔女の前でどのようなリアクションを取れば良いのか憚れていた。
「私……もしかして、あの子に酷いこと……して」
動かないレインに怯えているユティに気付き、そんなことは有りません、と首を振るブライド。
「何故貴女が、遺族に気を病むことがございましょう」
「だって……私が、魔女にならなきゃ、あの子は」
母親を亡くさずに済んだのに。
と言う言葉は、ブライドの剣呑の視線の前では欠き消された。
「貴女がそれを言えば、あの者はどんな気持ちになりましょう」
「それは……その、」
「自信をお持ちになれ、ユティ様。貴女こそが煉獄の魔女に相応しい」
「…………」
ブライドの前では頷いたユティ。
しかし、彼女はレインにどう謝れば、で頭がいっぱいになっていた。
「さ、ユティ様。帰りましょう、国王が貴女のことをお待ちになられている」
「あ、あの……! わ、私、その……っ」
ユティはチラッとレインを見る。
それを見て、ブライドは顔を顰めるが、ユティのやりたいようにさせることにしたのか、無言で立ち上がり背を向けた。
「(火に油を注ぐことだと言うのに)」
最後にチラリ、とレインを盗み見る。
魔女が産んだ息子……到底放置出来る存在ではない。
「(ならば……ユティ様を付けて置くか)」
何やらレインが気になるらしいユティを傍に置いておけば、自ずと所在がわかると言うもの。
ブライドは口角を上げてから、他の騎士たちに「帰還せよ!」と指示を飛ばす。
「(あの最強の魔女の遺物……どのようなものか、確かめさせて貰うぞ)」
帰還し始める騎士たちに続き、またブライドは動かないレインを見て密かに笑ったのだった。
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