崩壊した日

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冷たい母の体を見つめて、レインの心も冷めて行った。 「(……母さん)」 呼んでも呼んでも、もう返事をしてくれない。 「(あの、人……)」 母の胸に剣を突き立てた男。 顔をしっかり見たが……復讐をして、どうなると言うのか。 「母さんは……帰って来ない」 嘆いても、怒っても、何をしても。 もう大好きな母はいない。 どうしたら良いのか。 母だけが、レインの世界だったのだ。 それが突然、壊れた。 もうレインのあの幸せな世界は存在しなくて。 「あの……」 声がする方に顔を向ければ、先程の少女が困った顔で杖を抱き締めながらレインを見ていた。 「君……は」 「あの、私……その、ごめんなさい……!」 深々と頭を下げられ、彼女の後ろに縛る、一房だけ長い銀髪が垂れる。 「……ごめんなさい、って?」 「え、あの……!」 謝られたことを聞き返せば、彼女は顔を上げて杖を更に強く抱き締める。 「わ、私のせいで……お母さんを、その……!」 「うん……」 そう、彼女が来て、母が死んだ。 彼女が魔女で、ティアナの地位が欲しかった、らしい。 「でも、ね……君が謝ったからって……母さんはもう、戻って来ないんだ……」 「あ……えっと、ごめんなさい、私……」 「だから……謝らないで……君が謝ったら、母さんは生き返るの? ……違うよね」 だから、やめて。 レインが謝るのを拒絶すればするほど、少女は顔を青くする。 「あの、私……どうしたら、良いのでしょう……?」 「知らないよ……君のことなんて」 「え? そ、そう、ですよね……えっと……貴方は、どうするの、ですか……?」 「……わからないよ」 母が死んで、死んだ元凶相手に「これからどうする?」と聞かれても、どうすれば良いのか逆に教えて欲しいくらいで。 レインは虚ろな目で、少女を見上げた。 「君のことは…君で決めなきゃ。僕にはわからないし、君がどうしたいのか考えたら、良いんじゃない、かな……だから」 だから、もう放って置いて。 そう言うレインに、益々困ってしまう少女。 「私……は、貴方に、罪滅ぼしを……したい、です……」 「僕は、されたくないよ……」 求めれば、突き放される。 火に油を注いでいることにも気付けずただ答えを求めてくる少女を無視し、レインはティアナの死体を抱えて部屋に向かった。
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