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起き上がったレインはユティに目を向け、困ったように俯く。
「……君は、勝手だよ。君から先に拒んだのに、今度は連れてけなんて」
「……そう、です」
「それに傲慢だ」
「……そう、ですね……」
「でも」
そこで言葉を切ったレインは顔を上げた。
「魔女らしくて良いと思う」
少し目を細めて笑うレインに、ユティは言葉を無くす。
ようやく、だったのだ。
ユティはようやく、彼の笑みを向けられたのだ。
言葉を探そうとするユティに背を向け、「とりあえず此処から移動しようよ、折角出れたのにまた捕まっちゃうから」と急かすレインの言葉に仲間たちは賛同し、その場から走るように去る。
のを、一人の騎士が入り口から身を潜めながら見ていた。
仲間の騎士たちが的確に一撃で気絶されているのを気にも止めず、上空に羽ばたき留まるワイバーンに指で合図を飛ばす。
その指示に従うように何処かへ羽ばたくワイバーンを見送った騎士は、自身の頭を覆う兜を外し、もう姿なき侵入者たちが去った方向に目を向けた。
「王は何と?」
後ろに控えた部下に目を向けず問えば、「賊に城を侵入されるとは警備を強化する必要がある、と」と答えを聞き、「我々の管轄外ですが、王は無事です」と報告を受け、ならば良いと頷けば背後の部下の気配が消えた。
「……友よ、頼んだぞ」
視線を上に合わせるように小さく口角を上げた騎士は、身を翻す。
その呟きが、届いてなくとも。
ユティに逃げられたブライドは、王へ報告へ向かったのを静観していたジークフィーノは、一人になった瞬間に小さく息を吐く。
「(レインは無事だと思ったが……思った以上に肝を冷やされた)」
投げ飛ばされた時は飛び出しかけたが、あの騎士が何者か理解していただけに信頼を置いていた。
壁に背を預け、己の手を掴む。
「(まさか、レインの旅の仲間と言うのがユーティカリアだったとは……母殺しに立ち会った地位を奪った相手と、と言うことか……)」
煉獄を手に入れたユティ、煉獄の魔女の息子のレイン。
「(ブライドが王に伏せて、レインの仲間を捕らえ何かをしようとしていた……忠犬だと思っていたが)」
壁から離れ、歩き出すジークフィーノが向かうは、自身の邸。
ユティの背中を押したのは、他でもない兄の自分だった。
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