崩壊した日

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一通りの祈りを終えたレインは、ティアナを土葬して簡易的に墓を立てた。 少女はただそれを見ていただけなので、レインは知識を知っていて良かったと小さくため息を吐く。 「(母さんがいなければ……僕がこの村にいる意味はないんだけど……)」 でも、だからと言って、宛があるはずもない。 生まれ育ったのはこの村で、山の中腹まででレインの知る土地は終わっている。 「あの……」 「…………」 顔を向ければ少女は杖を持ち構え、しゃがむレインの近くに立っていた。 「私も……お参りを、しても……よろしい、ですか……?」 「……君がしたいなら」 「はい」 レインの横にしゃがみ、そっと手を合わせる少女の横顔をレインは複雑な心境で見詰める。 「(この子は……何なんだろう)」 漠然とした疑問だった。 少女は何故、レインの元に残ったままなのだろうか? 何故、騎士たちと共にいなくなってくれなかったのだろうか? 用でもあるのだろうか、ただ謝りどうしたら良いかを尋ね繰り返す少女が。 「君は……何で、ここに居るの?」 「え……?」 「どうして、あの人たちと一緒に帰らないで、僕に話し掛けてきたの?」 「えっ、と……その、私……貴方に、謝らないと…って思って……」 「……それが、君のしたいことならもう済んだのに、どうして、君はまだ僕の傍にいるの?」 「え……あの、私……」 「ティアナ! ティアナは居るか!」 村の方から大人たちが大勢でこっちに向かってくる。 レインは自然と少女の前に守るように立ち、村人たちを迎えた。 屈強な村人の一人が、レインの肩をガッと掴む。 「レイン! ティアナは何処だ!」 「……母さんは死んだよ」 「死んだ? あのバケモノがか?」 小屋に入る者たちが、中を捜索してもティアナの姿は見付からず代わりに血痕と小屋の外にある墓がそれを裏付けているのを察するしかなかった。 「あの魔女が……」 「バケモノも死ぬ時があるんだな」 「冗談じゃない! 死ぬなら死ぬと言ってくれないと! 私の息子が右足をウルフに齧り取られたのよ!」 「そうだ! 村人たちがウルフに甚大な被害を!」 「勝手に死ぬなんて、なんて身勝手なバケモノなんだ!」 村人たちが口々にティアナを責めるのを、レインは冷めた顔で見ていた。 「(どうして、人間ってこんなにエゴなんだろう)」 利用するだけして、悼むこともせずに糾弾するなんて、とレインの心はどんどん冷えていった。
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