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ところ代わり、イール山脈山頂。
ライラが岩の上で胡座をかきながら、登ってきた相手に嫌そうに表情を歪めた。
「やぁ、"雷神様"」
「……何の用だ、"雷帝"。ヘルカンツの狗が気安く国境越えて来るな、俺に話し掛けてくれるな」
「ふふ」
白に近い金髪を無造作に切り分けた"雷帝"と呼ばれた若い男は穏やかな笑みを浮かべ、その身に纏う深緑色の軍服に飾りと共にマントを羽搏かせ、タンッとライラの傍に立つ。
「先日、大魔法を使用していた様で、鼠退治にしては随分大事では?」
「数が多かった、それだけだ」
「はは、貴台の魔法量を持ってすれば常人相手には下級程度で蹴散らせよう。随分大きな鼠の大群がわざわざイール山脈を登頂したことで」
「貴様のような単身で登頂する馬鹿に比べれば、鼠の方が可愛い」
「それは恐縮致すところだね」
「暇なら帰れ」
苛立つようにライラの周囲を電流が走る、のを男は構わず笑みを浮かべたまま、来た方向とは逆へと岩から降りた。
「貴台の友人が亡くなったと聞いて、それで先日の大魔法だ。インダートでは何やら楽しそうな事が起きていそうで羨ましいよ」
「それでわざわざ此処まで来たのか? 軍も暇なもんだな」
「そう、そうなんだよ。退屈でね。戦争に赴くのはいつも下の者ばかり、僕は部屋の椅子に座ってお偉方の顔を見ながら作戦を立て命令を下すばかり……何故、この身を戦へと置いてはいけないのか、無駄に身分だけ偉くなっても退屈でいけない」
溜め息を溢す男に大鎚を肩にかけ、岩に座り直したライラは鼻を鳴らす。
「愚痴なら他を当たりやがれ。俺は貴様の話し相手になったつもりもねぇ、人間の癖に魔法量があるだけのただのクソガキの分際で馴れ馴れしい」
「僕をただのクソガキとしてくれる貴台だから、言うんだよ。インダートが何をしているのか、それが判れば上も黙っていないだろう? だから、観光がてらに視察に行くのさ」
「そのクソ目立つ格好で?」
軍服を身に纏う男にライラが呆れたように吐き捨てれば、「それもそうだった」とゆっくり頷きが返ってきた。
「じゃあ仕方がないなぁ、王都は諦めとこう。王都には"炎帝"ジークフィーノが居る、彼とは然るべき場所で戦わないと勿体無い」
「興味ねぇよ」
「ふふ、それでは、雷神様。また今度」
男は軽い足取りで、インダート側へと足を向け下山していくのを、ライラは「面倒な事を」と投げ遣りに見送った。
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