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北へと歩を進める一行は休息を重ねながら、ようやく集落らしき場所へとたどり着く。
「……人の気配がしないね?」
今にも崩れそうな廃屋が並ぶ、閑散とした印象を受ける集落の辺りでレインが見渡すが、人が出てくる様子はない。
ユティが地図を広げ、「ですが、地図に載っています」とレインへ見せた。
「此処は、ワクノット……鐘の村と呼ばれていて、ええと、あそこに大きな鐘の塔があった、のですが……」
「何だい、あの塔……何だか黒い跡が……」
アーネが引き攣った表情で指差す、その先。
塔の上部に、ぶら下がっている鐘、から下の部分。黒ずんだ跡が一直線に何かを流したように下へと伸びていた。
「……血だな」
「血!?」
「……此処は、あんま居心地良くねぇし、進まねぇ? 悪くねぇのに具合が悪くなりそうったら」
野宿した分、陽はまだ高い。
何処か不機嫌そうなゼオンに従うように一同も薄気味悪さを感じ村から出ようと歩み出すが、そこでガタッと物音が聞こえ、一様に振り返るとそこには。
「んん……、スヤ」
崩れた廃屋の上に、気持ち良さそうに寝息を立て寝ている一人の青年が居た。
色素の薄い肩まで伸ばした髪と、何処か中性的な顔と白い肌、薄着だが体中に纏う装飾品の数々。
異様なその人物の気配に今まで気付かなかったユティは、突然感じる青年の魔法量に「ヒッ」と小さく悲鳴を上げ後退る。
「お姉ちゃん?」
「……っ、……!」
一人怖じ気づくユティに仲間たちは不審がるが、それよりもこの青年は突如現れたようだが、まるで最初からそこで寝ていたかのようであった。
誰もが様子見する中、一人、レインがそっと近付く。
「れ、レイン!」
いつもは物怖じしないゴードの制止の呼び掛けも聞かず、レインは「お兄さん」と呼び掛ければ、寝ていた青年はゆるりと目を開く。
琥珀色の、幻想的な瞳と目が合った。
「ようやく会えた」
「え?」
青年は嬉しそうに手を伸ばし、レインの髪を撫でる。
「あの、」
身を引こうとするレインに青年は笑みを浮かべ上体を起こし、反対側の手でレインの手首を掴んだ。
「シーブの森の魔物たちを手懐けていたのは、お前だな」
「え……何……?」
立ち上がる青年は唖然とする仲間たちを一瞥してからレインに笑みを向ける。
「人間なんかと付き合うのはやめて、ボクらとおいで」
ね、と笑い掛けてくる青年の不気味さに、レインは気付けばその手を振りほどいていた。
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