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「な、何だったんだい、さっきの男……不気味と言うか……変にレインに絡んでいたね」
アーネは辺りを警戒しながらレインにそう声を掛ければ、俯いたまま首を横に振られるだけだった。
「……嬢ちゃんは、さっきの野郎出てきた? 瞬間に後退ったよな? 何かあった訳? やたら人間なんかって言ってたけど何、さっきのも魔女、なんて言わないよな?」
ゼオンに問われ、ユティは形容し難そうに口籠もりながら「魔女、だったら……良いのですが」と視線を外しながら杖を抱き抱える。
「どう言うことだよ」
「その……どう表現すれば良いのか……男性の魔女は元来存在はしません。稀に、魔法量がずば抜けて高い人間の男性が各属性に一人ずつ生まれる、と言うのは聞いたことがありますが……先程の方は、」
言葉を切り、どう言葉にすれば良いのかがわからない。
「(人間では、ない。それに魔女にしても何だかおかしいわ……属性は、闇……いいえ、違う? 分からない、ただ、不気味で……禍々しい、あんな出鱈目な魔法量、私は知らない)」
先程の青年の魔法量は、ただの人間ではない、言い換えれば化け物じみたそれに、思わず恐怖で身を引いてしまったのだ。
ユティが言葉を返さないと察し、ゼオンはそれからレインの背中を強かに叩く。
「痛!?」
「ほーら、しっかりしろ、レインくん。あんな変態野郎なんか気にしてねぇで、さっさとこっから出ようぜ」
「へ、変態……?」
「変態だろ、レインくんのこと何度も誘って来て。野郎が野郎に執拗に絡んで変な趣味なんじゃね?」
「……。……ゼオンなんかに言われたら、どうしようもないね」
「おい」
軽口のゼオンの言葉に、呆気に取られレインが小さく笑った。
それから隣で不安そうに見上げてくるマルシェの頭を撫でてやり、他の仲間たちに顔を上げる。
「ごめん、ちょっと慣れない絡まれ方に驚いちゃってた」
「レイン」
「……確かに僕は、化け物だけど、それでも君たちと行くって言った。それを覆す気はないんだ……行こうか」
「何だかゼオンがうるさいしね」と笑い歩き出すレインに「ケンカ売ってんの?」とゼオンが追い掛けるのを他の仲間たちも追い掛けた。
そこで、ワクノットの塔の鐘が軋みながら揺れ、不気味に鳴る。
決して気分の良い音ではないそれを背に、ワクノットを後にした。
これからの旅に不吉さを感じさせるような鐘の音は、暫く聞こえていたと言う。
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