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「母さんだって、死にたくて死んだんじゃないのに……」
「!」
村人たちの喧騒の中呟いたレインの言葉に、少女は下唇を噛み締めて俯く。
「(私が、私がいけないのに……私なんかが地位を得たせいで、この人のお母さんは……でも、謝ってはいけないと言われて……でも、なら私はどうすれば)」
許して貰えるのか、と考えた瞬間にハッとなる。
許されないことをしたのに、許しを乞うために謝っていたのかと気付いてしまい、顔を青ざめた。
「(あぁ……だから、この人は、私に謝らないで、って言ってくれていたの……?)」
レインの顔をそっと覗く。
母親殺しの同胞に対し、謝られ続け恨まずにただ苦しみながら拒んでいただけ。
「(貴方は今、どれほどの悲しみを背負っているの……?)」
母が目の前で殺された悲しみ、それを理解出来るほどに少女は不幸な人生を送っていない。
村人に迫害される苦しみを、少女は味わったことがない。
掛ける言葉もないまま、自分の浅ましさに絶句した少女を知り得ないレインは、村人たちに対峙する。
「ウルフのみんなが村を襲ったのは、母さんの結界が破れたからじゃない……」
レインの言葉に、口々にティアナを責めていた村人たちは一斉に口を閉ざし、レインを見る。
「(死んでもなお、母さんが責められるくらいなら……)」
レインは顔を上げ、それから自嘲気味に笑った。
「母さんの結界が破れてすぐ、僕の命令でみんなが来たんだよ。"母さんを殺した人を、やっつけて"って」
みんななら知ってるよね、僕が魔物に命令出来ることくらい。でも、みんなは仇を知らなかったみたい。
と続けて笑ったレインの一言に、村人たちは顔を赤くなって激昂し、近くにいた村人がレインの頬を思い切り殴った。
「この……っ、バケモノ!!」
それをきっかけに、次々に村人たちはレインに暴力を振るう。
「(僕が、全部引き受ける)」
レインは殴られながらも、母の名誉を傷付けられる怖さに比べれば、と身を屈めた。
「や、やめて……くださ……」
それを目の前で見ていた少女の血の気は引く。
「(どうして……そんな嘘を言うの……? そんなこと、貴方はただ、泣き叫んでいただけなのに……嘘、こんな嘘って)」
暴力に悲鳴も上げないレインに対し、少女は辛くなり顔を逸らした。
何故、レインが嘘をついたのか、意味を理解出来なかったから。
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